巷で大騒ぎになっている金融庁報告書。その中で特にクローズアップされている「2000万円の貯蓄、老後資産が必要」という1文だ。
給料少ないのに、2000万円なんて貯めるのは無理!そういう声が大きいのではないだろうか。まったくその通りである。しかし、本当に老後に公的年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)に加えて2000万円もの貯蓄が必要なのだろうか?
それは正しくない!
この記事では、もうちょっと正確に金融庁報告書の2000万円の部分を見て行き、結局我々は何をすべきかを探って行こう。
金融庁報告書 「高齢社会における資産形成・管理」の中身とは?
こちらから、全文が読めるので、興味のある方は、ざっと目を通して頂きたい。
全部で56ページの報告書だ。
ものすごくざっくり内容を要約すると、
- 長寿化、少子化が進み、人口全体に占める高齢者の割合が極めて大きい状態になっていく。
- 給料が伸びておらず、税金・保険料の収入に占める比率も一層大きくなっていく。
- 退職金制度も今後はなくなっていくだろう
- 老後に向けた資産形成で証券投資を意識している人の割合は少ない(2割以下)
- だからもっと老後に向けた資産形成で金融投資などを積極的に考えるようにするべきだ
要は、金融庁だから(そもそも年金は厚生労働省管轄)、年金の話をしたいのではなく、
資産形成のために、若いうちから金融投資(証券投資、iDeCo,積み立てNISAなど含む)を積極的に推進していく必要がある・・・という報告書なのである。
実際に読むと、2000万円の下りは、本文中たった2か所だけだ。
この報告書にしてみれば、論点ではない部分に全員の視線が行ってしまったという感じだろう。
なぜ2000万円足りないと大騒ぎになったのか
元々はこの情報だ。
ベースは総務省のデータを使って金融庁がまとめたものだ。
夫65歳以上、妻60歳以上で無職の世帯の平均収入と平均支出のデータだ。
収入はほぼ公的年金で19万1880円(年間で230万円)。まあ、サラリーマンが普通に厚生年金を納めていれば平均的にはこのような数字になる感じだ。まさに年金生活者のモデルだ。
一方で支出だが、
食料の6.4万円はずいぶん食べるなぁ(笑)。交通・通信・娯楽で約5万円も、多めな感じがする。ある程度の余裕を含んだ数字なのかもしれない。
いずれにしても、上記に基づき、収入と支出から、毎月約5.5万円の赤字になる。
65歳から20年だと約1300万円、30年だと約2000万円の赤字が出るので、それを補う資産が必要という事を金融庁は言っているのだ。
この2000万円足りない!が、すごい勢いでクローズアップ、そして独り歩きしてしまったのが、現在の状態である。
30年!?
まあ、生きないわけではないが、95歳だよ。95歳でこんなに食うのか、交通・通信・娯楽に毎月5万以上使うのか、細かく考えると、こういう平均値の議論というのは怪しくなる。
いずれにしても、大事なことは、2000万円という数字ではなく、仮に上記の平均値で話をすれば、毎月5.5万円の赤字になる状態が65歳から死ぬまで続くということなのだ。
逆に言えば、
公的年金に加えて、毎月5.5万円の追加収入が死ぬまであれば、問題ないのだ!
老後も毎月5.5万円の収入を死ぬまで得る方法
いくらでも方法はあるのではないだろうか。
上記の最低限の生活(ある意味生きているだけ)ベースで話をするのも、リアリティが薄くなるが、今回は2000万円の話なので、これで行こう。
上記データから言えるのは、
65歳から平均的な老齢基礎年金+老齢厚生年金をもらう老夫婦2名の世帯で、年金以外に毎月5.5万円の収入があれば、なんとか生きていけるということだ。
条件的には、子供の学費や住宅ローンへの大きな支出がすでに完了していることになるだろう。
極論すると、65歳で2000万円の貯蓄とか資産がなくても、毎月5.5万円の収入があれば良い。
そんなにこれが大変な事なのかどうか、検証していこう。
65歳以降、死ぬまで毎月5.5万円の収入を得るためにやっておくべき事
労働による収入はだめだ。95歳で働けるとは思えない。
なので、基本的には、不労所得が必要になる。どんなものがあるだろうか。
これが一番わかりやすい。家賃で毎月手取り5.5万円稼げばよいのだ。実質利回りを6%とすると、1.100万円の賃貸不動産資産があれば、このぐらいの家賃は稼げることにになる。
例えば、550万円のワンルームマンションを2部屋購入する。それぞれ、3万円~4万円での家賃で貸すのは、現時点では非現実的な状況ではない。これが65歳でできれば、とりあえず毎月5.5万円の不労収入は確保できることになる。なんとか、65歳までに、この資産(1100万円の貯蓄か、ローン完済した物件)を持っていればよいことになる。
リスクは、物件の値下がりによる損失(キャピタルロス)、退去や修繕コスト増加による実質利回り低下である。さらに長期で言えば、災害などによる致命的なダメージを受けるリスクもないではない。そうなったら、月21万円で暮らすしかない。
結局は、すべて利回りの話になってしまうわけだが、株式の配当金も安定的な不労所得のひとつであろう。株価(キャピタルゲイン)は変動があるため、売買差益で儲けるのはリスクもあるが、安定した配当金(インカムゲイン)を得ることは若干容易であろう。
税引き後で利回りは2.5-3%と見ておこう。仮に3%とすると、毎月5.5万円かせぐには、2200万円の投資が必要になる。ちょっと厳しいか。
すべて株の配当金から収入を確保すると考えるのではなく、5.5万の半分は配当金から、程度に考えるのが良いだろう。
株が暴落した時に、安く高配当な銘柄を少しづつ買っていけば良い。若い時代から備えるのであれば、慌てて買う必要はないのだ。株式投資のポートフォリオの中に、将来の老後の配当生活を見据えた銘柄をまぜておけばよい。
リスクはもちろん、保有銘柄の株価下落によるキャピタルロス、企業の損益悪化による配当金の減額などだ。最悪の場合は、倒産などされてしまうと致命的なダメージになってしまうので、利回りだけに惑わされずに、分散投資は必須であろう。
毎月分配型の投資信託も、株式配当と同じ考え方で良いが、投資信託の場合は毎月の信託手数料(運用費用)で1%,2% 近く取られるものもあるので、この点は要注意だ。
特に利回りの良い、米国債券(米ドル建て)なども検討に値する。利回りは低いが、安心して預けられる。米国債や、米国企業の債権なども比較的利率は高い。上記の株式配当金と分散させて投資するのがよいだろう。
例えば米国債10年ものだと、年利2.38%程度だ。どのタイミングで利子を受け取ることができるかは確認が必要だ。
日本の国債は0.1%程度なので、これは買ってもダメだ。よっぽど元手がないと、月5.5万円は日本国債では稼げない。
日本や米国の国債であれば、ほとんどリスクはないとも言えるが、ドル建てで米国債を買う場合には、為替リスクがあることに注意が必要である。
国内の預金ではどうにもならないので、債券同様、外貨で高利回りな定期預金を使う手もあるだろう。アジア圏などの成長中の国では日本よりはるかに高い利率の定期預金がある。6月末にフィリピンに行き、そこで定期預金(Time saving account)を開始するつもりなので、詳細情報はその際にご報告しよう。
定期預金の場合には、満期まで(たとえば3年後とか)利息をもらえない場合も多いと思うので、運用には注意が必要だ。毎月の不労所得にはならない場合がある。食いつなぐ資金が別に確保できていれば問題ないが。
まとめ
政局に利用されたり、一部だけを切り取って趣旨を変えてしまうような報道に踊らされてはいけないのだ。
年金払っても、どうせ2000万円もたりないのだから、もう年金とか払うのやめた!なんて事を考えるのは間違っている。年金だけで安心だというのも同時に間違いだが、それは昔からそうだ。
特に国民年金しか払っていない自営業やフリーランスの方は、まったく公的年金に対する期待値は異なるだろう。
すでに老後を迎えてしまった方は、現有資産の中で、いかに効率よく上記の不労所得を得るためにお金を使う(投資する)かを、考えるべきだ。
30年x5.5万円が2000万円議論の正体である。
残念ながら、これから少子化がさらに進めば、この赤字の5.5万円が拡大するのは明白だ。あわせて、年金支給開始年齢の引き上げも必ず議論されるだろう。本質的な問題は、むしろそちらだ。そうなったら、5.5万円の赤字どころの騒ぎではない。
やはり、どう考えても、もっと積極的に資産運用をして(必要な知識や世界経済に興味を持ち)、老後に必要な資金を、賦課方式である公的年金に加えて、自己積立方式での私的年金のハイブリッドで、若い時から計画的的に準備していくことが大事だ。
金融庁報告書は、そもそも、その事を言っているのである。