ここにきて、またわからなくなってしまった。
退職金(早期退職 加算金含む)を一時金でもらうべきか、年金で分割してもらうべきかだ。
一般的には、一時金の方が得という意見が多くみられる。その理由は、
- 一時金の場合、退職控除が大きいので、税金面で有利
- 年金にすると、公的年金とあわせて収入となり、所得税・住民税をそれなりの税率で支払う必要がある。
- 年金にすると収入が発生するので、国民健康保険の保険料が高くなる
ということで、確かにそのとおりである。
しかし、これはあくまでも、退職金が平均的な場合についてではないだろうか・・・
以前の下の記事で、自分の退職金 一時金の場合の税金を計算してみた。
前の記事で、早期退職の退職金加算は4950万円と設定した。 [sitecard subtitle=関連記事 url=https://ryo-japan.jp/retirement/archives/42/] 退職金950[…]
退職金 9500万円にかかる税金は?
仮にだが、高額退職金の場合(以下の例では9500万円)、ざっと以下のとおりになった。
退職所得控除:800万円 + 70万円 x (35-20年)= 1850万円
退職所得金額:(9500万円 - 1850万円)の半分(1/2) =3825万円
ここが問題で、優遇されている控除を引いても、課税対象がまだ3825万円あり、これに対する所得税率は、超累進課税の仕組みでは、
税率:40%!
控除額:279万6千円
になる。すなわち、
所得税:3825万円の40% - 279.6万円 = 1250.4万円
住民税:3825万円の10% = 382.5万円
合計で1632.9万円 (a) もの税金を支払う必要があることになる(正確には復興税26万円もあるが)。
1600万円の税金って、中古のマンション買えちゃう金額である!
なんといっても、所得税率の40%である。基本的には累進課税なので、絶対額が大きくなればなるほど(1年の収入として)、税金は跳ね上がるということだ。
であれば、この税率を下げるために、一時金の額を減らし、残りは毎年年金としてすこしづつもらえば、税率が上がらずに、総支払額も得するのではないか?とふと思ったわけだ。
(注)住民税は簡略化のため、所得税の課税対象額x10%で計算。控除額の差や均等割部は無視しています。
一部を年金でもらった場合の税金はいくらになるか?
しかし、この計算がなかなか難しい。退職金 一時金は、分離課税なので、他の収入などに影響されることなく、上記のとおり税金額が計算できるが、年金でもらう場合は、他の収入との合算やそこからさまざまな個人の状況に依存する控除を引いた結果に課税されるので、個人個人の状況でまったく異なってくるのだ。
なので、以下の計算はあくまでも自分の場合で単純モデル化した条件での計算になることにご留意いただきたいのだ。
計算の条件:
- 4500万円を一時金、残りの5000万円を60歳から20年の年金(250万円/年)でもらう
- 公的年金は65歳から250万円/年(厚生年金、国民年金合算)もらう
- その他の収入は一切なし
- 復興税はここでは無視する(合計金額への影響が少ないので)
まず一時金分の税金を計算してみよう
4500万円を一時金でもらう場合、退職控除を引いた後の課税対象額は1325万円となる。
所得税:税率33% 控除額 1536000円 で284万円
住民税:税率10% 132.5万円
合計で、416.5万円 (b)
となる。税率を1ランク下の33%にすることができる。すべてを一時金でもらう時の所得税1250万円とは圧倒的な差だ。一時金の額を半分にすると、所得税額は1/4以上に下がる。これが累進課税だ。
年金分の税金はどうなるか
税の仕組みは65歳未満と以上では異なってくる。自分の場合、
60-64歳(5年間)は、退職金の年金分で250万円/年が収入
65-80歳(15年間)は、これに厚生年金分が加わり、合計500万円/年の収入がある
これ以外に収入がないものとして計算すると、
公的年金控除は
60-64歳では、250万円の年金収入に対して、250x 0.75-37.5=150万円が課税対象になる。
65-80歳では、500万円x0.85-78.5=346.5万円が課税対象になる。
ここからさらに基礎控除38万円、配偶者控除 38万円を控除すると、
課税対象額は、
60-64歳までは、150-38-38= 74万円 (c)
65-80歳までは、346.5万円-38-38=270.5万円 (d)
となる。
国民健康保険の保険料が高い!
一方で、国民健康保険の保険料については、在住の役所の試算ページで計算してみた。これは自治体や個人の家族状況で保険料が異なるので、注意して頂きたい。あくまでも、筆者の場合の試算となる。
60-64歳までは25.6万円/年 (収入250万円/年、扶養家族2名で試算)
65歳以降は、50.8万円/年 (収入500万円/年、扶養家族2名で試算)
ちなみに収入ゼロの場合には、46750円/年になる(退職金をすべて一時金でもらう場合)
なんという違いだろうか。国民健康保険は、収入のある人から、かなりの額を徴収する仕組みなのだ(収入の少ない人の比率が、企業の健保組合に比べて多いため)。
ただし、この健康保険の支払いは、収入からそのまま全額控除されるので、税金の額を下げる効果はある。この控除を前で計算した課税対象額に対して考慮すると、以下のとおりとなる。
60-64歳までは、74万 (c) – 25.6万= 48.4万円
65-80歳までは、270.5万円 (d) – 50.8万円=219.7万円
所得税総計は、
(48.4万円 x 5% x 5年) + (219.7万円 x 10% – 9.75万円) x 15年 = 195.4万円
住民税総計は、
48.4万円x10% x 5年 + 219.7万円 x 10% x 15年= 353.75万円
合計すると、年金部分で80歳までに払う税金合計は、195.4+353.75=549.15万円 (e)となる。
国民健康保険料と税金の支払い総額はどうなるか
上記の計算をまとめると、
9500万円をすべて一時金でもらう場合:
1632.9万円(所得税、住民税総計)(a)
65-80歳は、公的年金(250万円/年)をもらえるので、それに対する税金は、
48.4万円 x 5% x 15年 + 48.4万円 x 10% x 15年 =108.9万円 (所得税、住民税)
国民健康保険料は、46750円x5年+25.6万円 x 15年=407.4万円 (国民健康保険料総額)
すべてを足すと、1632.9+ 108.9+ 407.4 = 2149.2
4500万円を一時金でもらい、5000万円を年金で受け取る場合:
一時金分に対する税金額:416.5万円 (b)
年金分に対する税金額:549.15万円 (e)
これを合わせると、
965.65万円 (所得税、住民税総計)(f)
国民健康保険は、
25.6万円x5 + 50.8万円x15 =890万円(国民健康保険料総額)(g)
税金と健康保険料の総額は、965.65(f) +890(g)= 1855.65万円となる。
結局どっちが得なのか?
税金+国民健康保険料 総額で比較すると、
2149.2万円 対 1855.5万円で、すべてを一時金でもらった方が約300万円損
となった。
すべて一時金でもらう場合の税率40%で、1632万円の税金支払いが、やはり相当負担増になるということだ。年金でもらう場合、年金の収入により、国民健康保険料がものすごく高くなるが、それでもこの税金の負担を超えるレベルではないということだ。
全額一時金でもらう場合と、一部を年金としてもらう場合、どちらが得かという計算は、非常に難しかった。不確定要素は、退職後の収入がどうなるか、その収入に応じた国民健康保険料がどうなるかに大きく依存することになる。
上記の計算では、退職金年金、公的年金以外にまったく収入がないと仮定したが、人によっては家賃収入やもちろん給料としての収入がある場合がある。多くの人は65歳までは働いて稼ぎたいと思っている人が多いだろう。
その場合、早期退職後(60歳~80歳)の年間収入を押し上げる方向であり、払う税金や健康保険料が増える方向に働く。上記計算(1855.65万円)よりさらに増える可能性が高い。そうなると、どちらが得かの結果が変わることになる。
気を付けるべきは、高額退職金の場合には、一概に一時金受け取りの方が得ということでなさそうだ、ということだ。超累進課税により、40%,45%の所得税率が適用される場合には、一部を年金に回して、高税率を回避した方が、得な場合もあるということを考慮しておくべきということかもしれない。
損得比較は、個人の状況によって変わるし、将来どのような収入が発生するかによっても変わります。あくまでもある前提でのシミュレーションで比較するしかなく、最終的には個人で判断するしかない事、としか言えません。皆さまが自分のシミュレーションをされる場合に、ここの情報が少しでも参考になれば幸いです。